稽古場レポート第三回 – 11月7日

投稿者: dcpop13aqua

『アクアリウム』の稽古場レポート、第三回をお届けします。

稽古三日目の今日は、最初の一時間で、劇中使われる或る曲の歌唱の練習をしました。その曲は舞台で実際に登場人物たちが歌うことになるかもしれない、との由。とまどいつつもヤケクソ気味のノリで身体を動かしまくりながら歌い上げる、役者の方々。他方、このときも単に歌わせるだけではなく、わざと歌詞をうろ覚えで歌わせたり、男性女性パートに別けたり、似非フランス語で歌わせたりとさまざまな演出をためしてみる、谷演出。「もうちょっとみなさん、楽しい感じで。まだ言葉が死んでる。『誰かに会える、可愛いあなたに』のところでは、その誰かをちゃんとイメージして!」と謎に真剣な歌唱指導が飛び交う一時間。

そして残りの稽古時間を使っては、前日からのつづきで、『アクアリウム』の台本読み合わせを行ないました。読み合わせした箇所は昨日とほぼ同じでしたが、今回は「その登場人物がどのような人間であるのか?」というところまでさかのぼって、ひとつひとつの科白を言うバックグラウンドを、演出家と役者とで丁寧に擦り合せるということをやっていきます。びっくりするほど丹念な返し稽古がつづく。そしてスッと読んでしまうと平坦になりかねない台本の文章に、俳優たちの声の力で、濃やかな起伏が付いていく。

返し稽古中に一つ、印象的な谷演出の発言がありました。「みなさん、科白をスラスラ出しすぎ。もっと周りにたいするセンサーを持って。時間を感じ、空気を感じ、そこからひとつひとつの言葉を生み出す根拠を見出していけば、シーン全体のテンポも自然に決まって来るはず。……いや、こんなこと読み合わせで言うことじゃないけど、これ立ち稽古になったら死ぬほど言うことになるので。」

ひとつひとつの言葉を生み出す根拠を見出していくこと。文章と文章の間で、次の言葉の言う根拠をちゃんとイメージすること。……このような指導は、読み合わせ中、再三再四かたちを変えてなされました。おそらくはこのポイントが、科白を持った俳優たちを舞台にのせる上で、谷演出が真剣にこだわっている点であることは間違いないでしょう。そのこだわりは、近くは『最後の精神分析』における木場勝己さん、石丸幹二さんとの議論の中でつちかったものであろうし、遠くは『完全版・人間失格』で台本の表記法を実験しはじめていた頃からの考察の蓄積の流れにあるものだと思います(「PLAYNOTE」2012年10月03日 – 舞台上で言葉を生み出す http://ow.ly/qBNgV )。

たとえば、「いや、まあ……」という短い科白にたいしてさえも、谷演出の細かな突っ込んだ指導が入ります。──「これは、答えがどうしても思い付かなかったか、思い付いたとしても恥ずかしくて言えなかったか。そういうバックグラウンドがあるものと思って、発語してください。」

あるいは「最近何やってんだろ、B’z」という何気ない科白にたいしても。──「これは、サラッと言ってしまうと単なる友達同士の会話になってしまう。でも、科白を言うのに0.5秒の遅れがあるだけで、『あっ、誰も喋らないから喋らなきゃ』みたいな空気が出る。これ以上沈黙がつづくと気まずくなるぞ、だからつなげられる話題に一個一個飛びついていく、みたいな。そういうオフビートな感じをよく想像して。」

あるいは「お話はもう終わった」という科白にたいして。──「これもサラッとではなく、発語=行動として読んで欲しい。たとえば『煙草の箱がある』という言葉も、実際に煙草の箱を目の前に出現させるようなイメージを持って読むと、全然違うはず。『お話はもう終わった』も、本当に何かを終わらせる、暗転させるイメージ、その科白自体が呪文になっているようなイメージで読んで欲しい。」

以上は、ほんの幾つかの例に過ぎません。そしてこうしたひとつひとつの役者への細かい難題が、俯瞰して見れば、「なぜこのシーンはこんなふうに書かれているのか」という大きな根拠を意識させるように、総合されていく。まさに稽古場でじわじわと一つの舞台芸術が立ち上がる瞬間を目の当たりにしたと思える、本日の、濃密な読み合わせ稽古でした。

次回のレポートにつづく。

【今日の一枚+α】
まずは一枚目。はっちゃけながら劇中使われる歌の練習をしている出演者の方々と、谷演出(左端)。谷演出は不思議な踊りを踊ってMPを吸いとろうとしているのではなく、指揮をしています。
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今回はもう一枚。休憩時間に、東谷英人さんを中心に俳優同士でシーンの背景を議論している最中。この議論に谷演出は関与しません。「台本を読んで俳優同士で本を理解、解釈したり、ああやろうこうやろうと稽古したり考えたり試したりするっていうのがいかにたくさんできるかどうかで芝居の厚みみたいなものが決まると思う」──というのは、『プルーフ/証明』時の東谷さんの言。今回もその「厚み」を目指して切磋琢磨しています。
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