DULL-COLORED POP vol.13 『アクアリウム』

月: 1月, 2014

イベントレポート – 一色洋平WS「体の把握とメンテナンス」(12/27)

(掲載写真のなかで舞台セットに関する軽いネタバレを含みます)

「意識が意識に対して直接問いたずねることは、また精神のあらゆる自己反省は、危険なことである……それゆえ私たちは身体に問いたずねる。」(或る哲学者)

さて今回は、先日シアター風姿花伝にて『アクアリウム』上演後に行なわれた一色洋平さんのワークショップ、「体の把握とメンテナンス」をレポート致します。とはいえ、専門のトレーナーである一色さんが教授することは本来有償であるべきものなので、内容を詳しくお伝えすることはできません。冒頭、今回のワークショップでは、「万人とって面白い知識を、種まきみたいにばぁーーっと蒔いて持ち帰ってもらうつもり」という説明がありました。そして実際そのとおりの情報密度の高いワークショップでしたけれど、その知識一つ一つをここで書くことは、しません。アウトラインを示せるのみです。そのアウトラインを読んだだけでも興味をそそられたという方は、是非、一色さんのパーソナルトレーニングを受講してみてくださいね。詳細は一色洋平さんのブログのトップ記事に記載されています。

事前に公表されていたプログラムはこんな感じでした。

■座学(知識の伝達、間違った身体知識の訂正)
■自分の体の歪みを知ろう
■自分一人でどこでもできる、体のメンテナンス運動
■お客さまのご希望に沿い、体幹/ダイエットなどのトレーニング運動
■未開発の腹筋「深腹筋(しんふっきん)」を開拓しよう

そして、おおむねこのプラグラムに沿った知識が次々一色さんから伝達されるという二時間弱でしたが、根本にあったのは、受講者全員に自分自身の身体を正しく把握して欲しいという情熱だと思います。ワークショップのタイトルどおりですね。そして正しい把握のためには、正しい知識が不可欠。最初の方で「市民ランナーの方がフルマラソンに参加する前にすべきウォーミング・アップっていうのは、一つだけでいいんですが、それって何でしょう?」という問いが一色さんから投げられ、受講者の何人かが答えてみたけれども、正解は出なかったということがありました。たぶん、もとから答えを知っていないかぎりほとんど正答できないと思われます。持久力を活性化させるためには端的に何が必要か? そんなことについてすらわれわれ常人は答えを知らない。それほどに身体について無知である。そしてそれ以降一色さんから教授される知識も、どれも耳新しいものばかりでした。
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基本的にワークショップ受講者の顔ぶれはアスリートではないので、何ヵ月も持続してやって効果が出るものではなく、効果の早い対処法を、肩凝りに対してはこれ、腰の歪みに対してはこれ、膝の痛みに対してはこれ、というふうにポンポン教えてもらう形で講義は進みました。それに加えて、簡単にできる整理運動、アイソメトリックトレーニング、体幹トレーニング、運動神経のトレーニングなど、誰でもパッと実践できて有効に用いることのできるトレーニング方法を、これでもかという勢いで数々教授してくれる一色さん。しかもその一つ一つについて、われわれが間違った知識を正せるように、簡潔な理論的な補足説明もなされます。たとえば、冬になって筋肉が固くなって凝りやすくなるのに対しては、ただ、●●をするだけでいい。それだけで効く。なぜなら●●の●●●作用で●●が●●するからである……みたいに。完全に二〇〇〇円でお釣りが来るレベルの情報量です。

小ネタも豊富でした。トップアスリートたちの逸話。アジア人特有の身体性について。●●●するとなぜ冷え性が治るのか。風呂場でできる簡単ダイエット。風呂場でできる簡単血流促進法。「ダイエットしたい! でも余計な筋肉は付けたくない!」というわがまま女子へのアドバイス。車に乗っていて踏切に閉じ込められたとき生き延びる方法(これはどうでもいいか……)。そんなふうな、トレーニング以外でも知っておけば何かの役に立つであろう情報が合間合間に仕込まれて、受講者としては退屈する暇がありません。ワークショップ中はつねに資料の束を持ち、演劇の余興ではあり得ない、前夜からしっかり準備してきたらしい充実した講義内容、それを可能にした一色さんの熱誠に、頭が下がります。
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さらには自ら身体もはってみせる一色さん。というのは、プログラムにもある「深腹筋」がどこにあるか実感してもらうために、舞台に横たわって受講者に自分の腹筋を触らせるという一幕があったのでした。たしかに、「深腹筋」というのはわれわれが普段知っている腹筋とは別のところにあるもので、内転筋につながっていて非常に重要な筋肉である、と説明を受けても存在を実感しにくいものです。存在が実感できなければ、トレーニング中でも意識しにくい。ならば実際自分の鍛え上げた腹筋に触れて場所をたしかめてもらえばいい。この発想がすかさず出てくるところに、身体性に根ざした一色さんの明朗さを感じます。下の写真はそうして受講者の方々に自分の腹筋を触らせている一色さんの図です。写真中、もう一人、舞台奥で腹筋を触ってほしげに横たわっている男性がおりますが、誰も触りに行かないことから、いろいろと察してください。彼の芸人根性と無視される哀しみを──。
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という次第で、おそらくは観劇したひとの三分の一ほどは参加したんじゃないか、というくらい盛況だった一色洋平さんの「体の把握とメンテナンス」ワークショップ。実は元陸上部なのでちまちまトレーニング関係の本を読んだりする筆者でも、相当勉強になりました。さらに身体について個人的な課題を持っている方なら、一色さんの聡明で機敏な指導から多くを学ぶことができると思います。では、最後にもう一度一色さんのブログ記事を紹介してこのレポートを締めます。さあ、みなさんも真摯に「身体に問いたずね」てみましょう、クリック!

【パーソナルトレーニング受講者、ワークショップ受講団体募集のお知らせ】|『いっしきにっき』
http://ameblo.jp/yohei-isshiki/entry-11684849009.html

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イベントレポート – クリスマスパーティー(12/24)

(例によって、舞台セットやシーン内容についての軽いネタバレを含みます)

出演俳優の方々と『アクアリウム』の演技・演出の細部についてアツく語り合う一時間──。たまにはこういうクリスマス・イヴがあってもいいはずだ。

というわけでわたくし、24日は火曜日の18:00〜の回の後に行なわれた『アクアリウム』のクリスマス・イベントに参加してきました。イベントといっても実質的には、お酒を飲みながら出演俳優の方々と歓談するという交流会に近いもので、29日(日)に行なわれる大忘年会の前哨戦という趣き。もちろん大忘年会の方が有料である分、時間も長く、また食べ物なども豪華になるでしょうが……なるはず。いずれにせよ、度々こういう交流の機会が得られることは観客にとっても幸いと思います。

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まずは、誰もサプライズさせないサプライズ衣裳を着て主宰・谷賢一氏が登場。中村梨那さんが着ていたワニの衣裳の上に、中間統彦さんが付けていたクリスマスの小道具やら飾りやらを羽織るだけというやっつけぶり、しかしそうまでしてなんとか普通でない格好をしてみせるという出所不明のサービス精神に、われわれは図らずも感動を覚えます。「宗教なんか関係ねーよ! キリスト教徒も! 仏教徒も! 手をとりあって、仲良く、楽しく、今日ぐらいは平和に過ごそうよ!」という切実な訴えかけの後に、全員がお酒をついだコップを持って、世界平和を祈りつつ乾杯。
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その後はゆるりと観客・俳優・スタッフ入り交じっての歓談タイムに移行。『アクアリウム』上演してすぐ後のことということもあってか、今さっきの上演内容について細かいことを質問しても、みなさん気さくに答えてくださいました。

例えば。複数回観劇された方はすでに気づいているでしょうが、前半にある、てつ(東谷さん)の「じゃあ幹事、何かやれよ。」の前フリから始まってゆうき(中間さん)が立ち往生するというシーンは、公演期間中にも相当変化していっています。東谷さんによれば、以前は東谷さんがその場で中間さんにアドリブでお題を出して(例:「郷ひろみの物真似やれ」)リアルに中間さんを戸惑わせていたのだが、それでも上手く「すべった」感じが出せないということで、数日前からそうやってお題を出すことを止め、代わりにゆうき(中間さん)のリアクションに対し「それ可愛くないから」とてつ(東谷さん)が突っ込みを入れるという形に変えたのだそう。余談ですが第十一回レポート http://bit.ly/1iNqbGb で「実現したい雰囲気というものがなかなか作れな」くて苦労していたというのは、このシーンのことでした。そして、公演期間中もまだまだその試行錯誤はつづいている。そういう興味深い裏話も東谷さんから聞くことができました。

或いは。しんや役の渡邊亮さんからは、しんやに振られている重要なモノローグ、長科白を成立させるためにどのような努力しているかということを伺うことができた。観る者にはどうしたって印象に残らざるを得ない、後半にあるしんやの異様にぐるぐる動揺しながらの長科白──自分が稽古場で見ていたものから一番飛躍していると感じていたのが、これです。その裏には、実は数々の工夫の積み重ねがあった。まずは、しんやが舞台に登場する前の感情を準備するという段階で、意識的な努力がなされている。渡邊さん曰く、その時点ですでに、さまざまなイメージ、例えば●●の●●を●●●●するといった凄惨なイメージをありありと想像することによって、自分の動悸を烈しくし、動揺を鋭くしていくということをやっている。そして舞台に出て後、自分の台詞を喋るときには、当然一つ一つの台詞が出て来る動機をあらかじめ読み込んでおき──例えば「死んだ方がいいと思うこともあります」「でもどうしてもそれは違う気がする」という二つの台詞の間で内的にどのような変化があるか?など──さらにそれを舞台上で自分の視野に入って来るもの(てつやゆかりたちの視線)に対するリアクションで補強しつつ、或いはそのつどイメージをしっかり置きつつ、しかも、そのイメージを毎ステージ毎ステージ変化させつつ(同じイメージに対して毎回同じ感情が沸き起こるとは限らないから)、それでいて!長い長い台詞を貫いているダイナミズムの線は一つに収束していくようにと意識しつつ、ほんとうにまだまだ台本と格闘するつもりで、やっている、との由。25ステージを終えた今もなお、谷演出と渡邊さんとで「しんや」という人物を考えていくという努力はつづいている……。実際にお話を伺うと、これからも(12/26〜12/31の東京公演、その後の福岡・大阪・仙台・岡山公演で)さらに『アクアリウム』という作品が進化していくであろうことを実感できます。

日々自分の役が変化し、細かいところで彫琢されていっているというお話は、他の俳優の方からも伺うことができました。単純にゲスト俳優の違いというだけでなく、もともと演出が緻密な作品なだけに、細部での変化も濃やかに味わうことのできる『アクアリウム』、東京公演は残すところ十指に満たないですが、二度三度のリピート観劇をお勧めいたします。あと、29日の大忘年会は出演俳優のみなさまに作品の裏話も聞ける貴重な機会として、時間に余裕がある方は参加してみると大いに有益だと存じます。(※執筆時は12/25)

では、最後に写真を一枚。この日は実はDULL COLORED-POP劇団員の東谷英人さんの誕生日でもありました。ならば普通にお祝いすればよいところ、あの男がそんな単純なことをするわけがなかった。舞台に東谷さんを上げた上で、「菊池」の格好をした谷演出と「部長」大原さんとで謎の小芝居が始まります。「部長! 大変な情報を手にしました! 今日はクリスマス・イヴであるだけでなく、東谷英人さんの誕生日だったんです!」「よーし! 全員で! ハッピーバースデーを歌ってやる!」可愛げのない菊池……誰も得しない過剰なサービス精神に脱帽です。
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(東谷さん、渡邊さんのお話は筆者が記憶で再構成したもので、およそお二人が語った内容そのままではありません。)