DULL-COLORED POP vol.13 『アクアリウム』

INTERVIEW – 中村梨那さん

(本日『アクアリウム』についての新たな情報も公開されたのでそちらもチェックしてくださいね! →『アクアリウム』情報公開第3段!! http://ow.ly/r7V4g
つづいての『アクアリウム』出演者インタビューは、DULL-COLORED POP劇団員、明朗なヴァイタリティと瞬発力、そして稽古後にすぐ反省する率直さが魅力の、中村梨那(なかむら・りな)さんです!

────劇団員の方へのインタビューは、客演の方とは切り口を変えて、今現在語りたいトピックをそちらから出してもらって、それについて掘りさげるというかたちにしています。中村さんのトピックは、「舞台の上で存在するということについて」。これは、課題として中村さんが最近考えていらっしゃることなのでしょうか。
中村 そうですね、常日頃考えています。……三年ぐらい前に、とあるインタビューで「ライバルは誰ですか?」と質問された時に、「赤ちゃんとマネキン」って言ったんですね(笑)。マネキンっていうのは、身体の美の極致として。そして赤ちゃんっていうのは……赤ちゃんには敵わないなと思うんです。

────それはかなり珍しい答えのような気がしますが……中村さんの場合、赤ん坊のように、ほんとうにお芝居が何もない状態、ただ生理だけで反応したり動いたりできるような状態を、舞台の上での理想と考えているのでしょうか。
中村 そういった状態に憧れている、ということだと思います。自分には絶対できないな、って思うので。私はどうしても舞台上で、科白の言い方や、ダメ出しの内容をそのまま『やろう』としてしまうことが多くて。そうじゃなくて、赤ちゃんのように純粋に舞台に存在して、来るものに無垢に反応して、出来事を起こしていく。そういう状態に近づいて行けたらと思う。
 ……集中する、っていうことだと思うんです。舞台上で、自分の役の設定なり文脈をものすごく信じて、落とし込んで、どこまで集中してやれるか……ほんとうに。
 たとえば一つのベンチに男女が坐っていて、その坐っている様子を見ただけでその二人の関係性が分かったりする。ちょっとした手の動き、そしてそれに対する反応一つで。
 1つ1つの無意識の判断や行動。日常では自然と関係性の中でやっていることのはずで、でも舞台に立つと「どう見えてるかな」って自意識が働いて、いろいろとそれが制限されてしまう──自分で制限してしまう。そういうのを取り払えたらと思うんです。もちろん「創り出すこと」の面白さというのは断然あると思うのですが。その前段階の話ですかね。

────そのように、中村さんが俳優としてやっていく上で、赤ん坊のような自然体を理想と考えはじめたのは、いつ頃からのことなのでしょうか。
中村 思い出すのは、大学での映画の講義です。世界で一番最初に撮られた映画を見て。それはスクリーンにただ海の映像を映しただけのものだったんですけど、不規則に立つさざ波、二度とくり返されない波の形、それらが移り変わっていくのを、何時間でも見ていられるなと思った。全然退屈しなかったんですね。
 そしてそれとは別に、父、母、子が食卓を囲んでいる映像も観て。登場する方々の演技がメインのはずなのに私はその後ろの木立が風で揺れている様とか、コーヒーカップから立ちのぼる湯気の形とか、そこにただ在る、「創ってる」んじゃなくて、ただ在る、そっちの方に目線をずっと奪われていったんです。もう授業の内容はそっちのけで、そういうところばかり見ていました(笑)。
 その後、思考が遠く巡り巡って行き着いたのが赤ちゃんだったんです。

────なるほど。そのような映画に対する少し変わった見方から、「赤ちゃん」という理想が出てきたというのは、一貫性があるように思います。
中村 ほんとに、その役「その人」として生きるということ。こんなの当たり前のことなんですけど……その場で呼吸をする、その場で目的を持ってちゃんと存在する。たとえば私が今、Yさんに「ねえ!」と呼び掛けるなら、こうやって、身体を開いてみせるじゃないですか。これはYさんに訴えかけたいからこそ。目的があって自然にそうやっているわけで、それを舞台上でも、「やらなきゃ」とか「計算して」とかじゃなくて、自然にその状態がその人物として出来るようになれればと思って……反復と関係性とを落とし込まなきゃきっと至れないですけど。そのことを目標にこれからも模索していきたいと思っています。
 ……今回の『アクアリウム』の●●役では、もう理想とは程遠いな!と思いながら苦戦しています。

────中村さんが苦労されているのは、稽古を見学していても伝わってきます。それでは最後に、このインタビューを読まれるみなさまにメッセージをお願いします。
中村 針に細い糸を通してカラフルなパッチワークを作るようなお話です。どこまで行っても人間の不可思議さと不可解さは尽きない。でも細ーい糸を手繰ったら誰もが引っ掛かるのでは……なんて考えて、観てくださる方からどんな声をうかがえるかとても楽しみです。
 2ヶ月間のロングラン!
 劇場にて心よりお待ちしております。

★中村梨那さんの『アクアリウム』チケット個人予約ページ(東京公演12月分のみ)
https://ticket.corich.jp/apply/51045/006/
★中村梨那さんのtwitter
https://twitter.com/rinxpear
★中村梨那さんのブログ「全力疾走っ。」
http://ameblo.jp/rinxpear/

『アクアリウム』情報公開第3段!!

12月5日より始まる、DULL-COLORED POP#13『アクアリウム』。
11月10日、17日に引き続き情報公開第3段をお届けします!

本日の新たな情報は…

【1】≪東京公演≫イベントのお知らせ
【2】≪大阪公演≫本日よりチケット販売!
【3】≪東京公演≫チケットプレゼントのお知らせ

——————————————————————————-

【1】≪東京公演≫イベントのお知らせ
1ヵ月ロングランの東京公演では、『アクアリウム』の世界にもう1m深く潜れるさまざまなイベントを開催致します!
ぜひお気軽にお申込み下さいませ。

◆「開幕パーティ」12/8(日)19:00~21:00
東京12月から岡山3月まで、年末年始どころか春になるまで公演し続けちゃおうという本公演!
そんなダルカラ史上最大の挑戦をいち早く見届けてくれたあなたと開幕を祝いたい!!ということで、開幕パーティしちゃいます!
このシーンどうなってんじゃ、あそこがよかった等々、あなたの忌憚ないご意見、私たちに直接ぶつけてみませんか?

〖参加者〗DULL-COLORED POP・「アクアリウム」出演者
〖料金〗2000円(飲み放題・劇団員手料理ほか軽食あり)

※関係者じゃないから、、、とご遠慮なさらず!ご観劇いただいた皆様、また、応援くださっている皆様と語り合いたくて設けたパーティです。
※ご観劇の前の方でもご参加いただけますが、宴の性質上、ネタバレの可能性ありです。ご了承ください。
※なので、よかったら事前に観てくれたら嬉しいな・・・!

◆「アクアリウム体験ワークショップ」12/15(日)・22(日)いずれも19:00~21:00
公演で実際に使用しているセット・小道具を使用して、出演俳優と一緒に舞台にあがってみませんか?
使用するのはもちろん「アクアリウム」の脚本の一幕。谷による演出もつけさせていただきます!
芝居経験の有無は問いません。一緒に「アクアリウム」の世界をもう1m深く感じてみませんか?

〖講師〗谷賢一・「アクアリウム」出演俳優(誰が出演するかは当日のお楽しみ!)
〖料金〗3000円(使用テキスト代含み)

※ご観劇の前の方でもご参加いただけますが、WSの性質上、ネタバレまくりです。
ご了承ください。
※なので、よかったらWS前に観てくれたら嬉しいな・・・!

◆忘年会 12/29(日)19:00~21:00
今年のダルカラもいろいろいろいろありました。6月には番外公演「プルーフ/証明」、(8月には番外で夏季集中講義も!)10月には番外公演「最後の精神分析/フロイトvsルイス」、そして12月からは4か月にもわたる第13回本公演「アクアリウム」…。
皆様の今年のご愛顧に感謝し、また、来年のご多幸を祈って、お客様と劇団の共通のホームである劇場で忘年会を執り行います!
お誘いあわせの上、奮ってご参加くださいませ。

〖参加〗DULL-COLORED POP・「アクアリウム」出演者
〖料金〗2500円(飲み放題・劇団員手料理ほか軽食あり)

◆年越しイベント 12/31(火)18:00~21:00
12月の3大イベントといえばクリスマスに忘年会に年越し!!!!
クリスマスも忘年会もやったからには、(千穐楽後だけど)ここまで見守ってくださったお客様と一緒に年越ししたい!!!
一緒にバカ騒ぎをして今年を締めくくり、2014年を迎えに行きましょう。

〖参加〗DULL-COLORED POP・「アクアリウム」出演者
〖料金〗1500円
〖内容(予定)〗
•若林えりマジ歌サウンドオブミュージック
•堀奈津美SMショー
•ももちゃんとお医者さんごっこ(別途オークション制)
•大原研二 奉納相撲
•スナック梨那
•東谷英人 瓦割り

•中林舞 動物ものまね/中島みゆきショー
•中間統彦 断髪式
•渡邉亮 ストリップショー
•一色洋平 あいのことば〜for you〜

※バラシの進行状況によってはイベント開始を多少お待ちいただくことがございます。ご了承くださいませ。
※予定は未定です。未定ですが、おそらくこんな雰囲気です。

☆イベント参加お申込み方法(共通)☆
劇団(info@dcpop.org)までメールにてお申込みください。
劇団からの返信を以て受付完了とさせていただきます。

件名:参加を希望するイベントタイトル名・日時
本文:①参加希望イベントタイトル名
②日時
③お名前
④お電話番号
⑤申込み人数

※複数イベントをお申込みの場合、お手数ですがイベントごとにご連絡をいただきますようお願いいたします。
※状況によっては受付を締め切る場合がございます。ご参加希望の方はお早目にご連絡くださいませ。

【2】≪大阪公演≫本日よりチケット販売!
『くろねこちゃんとベージュねこちゃん』から早2年、再びin→dependent theatreに参ります!
1stから2ndに会場を移し、一回りも二回りも成長したDULL-COLORED POPを大阪の皆さまにお披露目します。
本日午前10時より大阪公演のチケットを販売開始!ぜひぜひお越しくださいませ!
→大阪公演詳細はこちら

【3】≪東京公演≫チケットプレゼントのお知らせ演劇ポータルサイト「CoRich舞台芸術!」にて、チケットプレゼントを実施致します!
詳細は明日、11月25日にCoRich舞台芸術!のHPにて。→こちら
「お金がないけど観たい!」って方は、お見逃しなく!!

INTERVIEW – 東谷英人さん

つづいての『アクアリウム』出演者インタビューは、DULL-COLORED POP劇団員、実直な熱意で稽古場の空気を引っ張っていく、気さくな体当たり俳優、東谷英人(あずまや・えいと)さんです!

────劇団員の方へのインタビューは、客演の方とは切り口を変えて、今現在語りたいトピックをそちらから出してもらって、それについて掘りさげるというかたちにしています。東谷さんのトピックは、「喋ること」。たとえばこれは、東谷さんが『ゲスバカ天国』( http://ow.ly/r4MAO )というポッドキャストをやってらっしゃるのと関係することでしょうか?
東谷 いや、それはまったく関係ないわけじゃないですけど、今とくに考えていることっていうのは……最近世の中があまり「喋る」ことなしに生きて行けるようになっているな、ってことです。極端な話、インターネットがあれば、買物なんかは大抵ネットの手続きで済ませられる。それに普段の生活でも、かなり能動的に行動しないと、あまり人と関わることなしに、人と喋ることなしに過ぎてしまう。でもそういう状況に対して、今の自分としては、ポッドキャストをやったりすることもそうですけど、もっともっと喋っていきたいなと思っているんです。

────その喋るっていうのには、舞台上で台本の科白を発語することも含まれるのでしょうか。
東谷 ええ。舞台上で喋るっていうのも、ただ科白を口にすればいいということではないですから。もちろん台本の言葉を喋っているんですが、それを覚えて口にするだけなら誰にでもできるわけで、自分の言う言葉を、それを自分が言う根拠は何か、とか、どういうふうに言うのか、とかを考えてはじめて役者として「喋る」ことが成立する。

────では、演劇においてや、ポッドキャストにおいて以外の領域で、東谷さんは今どのように能動的に「喋る」ことを実践されているのでしょうか。
東谷 そうですね……たとえばの話ですが、短期のアルバイトをしてみて、まったく演劇とは関係ない人と職場を共にして、そこで本来の自分とは全然違うふうな態度を敢えてやってみたりとか、実験しています。俺普段だったらこんなこと絶対言わないのにな、ってことを言ってみたりして。お世辞とか。思ってもないのに褒めてみたりとか。遠慮せずに文句言ってみたりとか。でもそれは単にわざとキャラを変えているというのではなくて、こういうことを今言ってみたらどうなるかな?とか、どういう反応として返ってくるのかな?とかを「聞く」ためにやるんですね。そうやって「喋る-聞く」のヴァリエーションを実験してみる。

────非常に面白いことをやってらっしゃると思いますが……そういう実験をして、それは最終的にどういう目的につながっていくのでしょうか?
東谷 目的っていうか……そういう実験をしてみて、分かるのは、どうとでもなるな、ってことです。或る意味自分のことがよく分からないので、自分がどういう人間なのかなっていうのを知るために実験してみるんですが、普段の自分どおり以外の自分として喋っても、意外と通用したりして、そうすると自己認識が広がっていく。……でもこれって、演劇にも通じることじゃないかって思うところもあります。つまり、そういうふうに自己認識を広げるって、演劇のワークショップとやっていることが変わらないなって。喋ることの実験をやっている、という意識を持てば、接客業をやりながらでも多くの発見がある。ムカつく客とのやり取りの中でも新鮮な面白さがある。どんな仕事でも、これは演劇のワークショップなんだなって思えば、大抵のことは興味をもってやれる。

────でも聞いていると、むしろ東谷さんが演劇人として活動していることが日常に滲み出して、喋ることの実験をやっている、というふうに思えます。つまり、東谷さんが演劇をやっているからこそ、そういうお考えを持てるのだと。
東谷 いやでも、「演劇」というよりは……自分が面白いと思う演劇っていうのは、なんか「ほんとうだな」とか「生々しいな」っていう印象を受けるものなんですね。明らかに「嘘っこ」と分かる芝居は好きじゃない。だから、自分のなかで日常的にリアルに人間観察をすることと、演劇をやることっていうのはあまり乖離していない。演劇をやっている人の誰もが、仕事を演劇ワークショップみたいに捉えられるわけではないと思います。誰もが、50代のおばちゃんの話に真面目に耳を傾けられるわけではない。でも僕は、おばちゃんの話を聞いてみて、意外と面白いなと思えるんですね。個人的な体験談とか。そんな話に関心を持てたりする自分自身も面白い。そこからさらに、このおばちゃんに好かれるためにはどうしたらいいかな、と考えてみるのも面白い。そうするとなんでもない日常が面白くなるし、生きやすくもなる。そしてそれもまた演劇にフィードバックされていくんです。それが、ここ半年ほど芝居に出ていなかった時期に考えていたことで……それをこの『アクアリウム』に応用して活かせたらいいなと思っています。

────上手いこと話をつなげていただいてありがとうございます。最後に、このインタビューを読まれるみなさまにメッセージをお願いします。
東谷 読まないでください。といっても無理か笑。おもしろいってなんでしょう。みなさんはどうですか?……新作やりますよ!ぼくらはやろうとしてる。やります。ぼくらの「おもしろい」を。ぜひ観にきて頂けたら幸いです。 

★東谷英人さんの『アクアリウム』チケット個人予約ページ(東京公演12月分のみ)
https://ticket.corich.jp/apply/51045/004/
★東谷英人さんのtwitter
https://twitter.com/azumaya8
★東谷英人さんのブログ「東谷英人ひとりかい」
http://ameblo.jp/e-az/

稽古場レポート第十二回 – 11月21日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第十二回をお届けします。
(目下『アクアリウム』について耳寄りな情報が公開されていますので、そちらもよろしくです。 →『アクアリウム』情報公開第2段!! http://ow.ly/qTVvC

本日も前日からのつづきで立ち稽古。でも稽古するシーンがシーンなだけに、今回はダメ出しでかなり細かく間やニュアンスが指定され、谷演出のイメージに沿うようにがしがし演技が研磨されていきます。もちろん、俳優たちにエチュード的にアイディアを出させて、出て来た反応のなかから面白いものを採用していく、といった時間帯もありましたが、おおよそしつこいくらい丹念な返し稽古で、シーンの完成度を高めていくということがつづく。

谷演出のダメ出しがどれだけ細かいか。たぶんそれは、読者の方の想像の五割増しくらい細かいので、今回は具体例で描写していきます。

たとえば、或る役Dのそんなこと言う必要ないでしょ的な科白に対しての、役Eの応え、「どうして?」の一言について。谷演出はまず「ここちょっと気になるんだけど……」と違和感を表明してから考え込む。初発はちょっとした違和感から始まる。そしてそれをじっくり考え考え言語化し、ダメ出しとして提示していく。それによって「……たぶん、この『どうして?』が疑問に聞こえちゃうと良くないんだと思う。『なんで?』って訊いちゃう感じじゃなくて、『言えて当然でしょ?』っていう、言えない人の存在があり得ないみたいに引いちゃう感じの『どうして?』だと、良いんだと思う。自分の常識が当然だと思っている、聞いててムカつく感じ。『なんで?』と疑問にしてしまうとその感じが出ない。」──というふうに、やたら精密なニュアンスの修整が行なわれます。しかもこの修整は、このシーンで役Eが基本的には善人っぽく、申し訳なさそうにしていながらも、ときどき「言えて当然でしょ?」みたいな怖さを見せることが、周囲に対して不気味さを伝播していくという現前的効果に寄与するものとして、一貫した作為のもと、指定される。そして俳優の方も、ダメ出しを受けて、自分のやり易い感じ、つなぎ易い感じではなくて、谷演出の一貫したイメージに沿うように演技を適宜変えていく。そんなふうなねちねちした稽古が、延々とつづくわけです。

もう一例。役Eと役Fの以下のようなやり取りについて。
E「なら話が早い。」
F「え?」
E「あぁ、いえ。」
F「え?」
この役Fの最初の「え?」について、谷演出はまず「まだちょっと求めている音と違うかな」と言及する。つづけて、この「え?」は全然何を言われている分からない感じだと良い、と説明。ここでのEはあまり状況を呑み込めていない方が場の空気にもふさわしい……。そして突然、E役の俳優に向かって「あなたは清涼飲料水でいったら何?」と質問する。それがあまりに意味不明なので、しばらく絶句してから、ふと笑い出してしまうE役の俳優。すると、すかさず「そういう感じそういう感じ! 『それ何の質問?』って感じで、ほんとに頓珍漢なことを言われて、うっ、ってなる感じで、この『え?』を出せると次につながっていく」と指摘する谷演出。稽古場で現われるダメ出しの手管は多種多様。ときには、こうして捻った喩えを使って、言語化の難しいニュアンスのヒントを役者の方に与えていくこともあります。

上の二例はもっとも細かいダメ出しの例です。必ずしもこんな修整ばかりつづいたわけではないですが、今日一日の立ち稽古で、所作や目線や反応も含めた細部への彫琢がほどこされ、ぼんやり観ていると見逃しそうな舞台上の瞬間にまで、演出の神経が張りめぐらされていきました。ちょっと宣伝っぽいことを言っておけば、この演出の精緻さは、一度観ただけでは味わい尽くせないです。それは断言しておきます。(リピート観劇しましょう、ということ。)

次回のレポートにつづく!

【今日の一枚+α】
前の方に集まって稽古を見る俳優の男性陣。若林えりさんと中村梨那さんが演じなければならない或るシーンについて、彼らがしきりにアドバイスを飛ばします。なぜ男性陣が、なのかは、実際の上演を観ていただければ分かります。たぶん。
画像
神妙にアドバイスを聴く若林さんと中村さん。
画像

稽古場レポート第十一回 – 11月20日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第十一回をお届けします。
(目下『アクアリウム』について耳寄りな情報が公開されていますので、そちらもよろしくです。 →『アクアリウム』情報公開第2段!! http://ow.ly/qTVvC

本日は冒頭、谷演出の「ものを並べてみようかな」という言葉から、稽古場(閉校になった学校の教室)の机や椅子を使って仮のセットを組むことからはじまります。配置を色々試し、試していくなかで気づくこともあり、谷演出からやはり指示も出たりして、おおまかな空間の使い方が決まっていく。それから谷演出の「じゃあみなさんなりに始まりの準備をしてみてください」という言葉。というわけで今日から本格的に立ち稽古です。

「台本」が「舞台芸術」になるプロセスには必ず「演出」という契機がかんでくる。立ち稽古になると、その「演出」によって何がどう変わるかが如実に見えて来ます。昨日までの稽古でも、一応(とくに前半部分は役者の方々に科白が入っているので)半ば立ち稽古のような感じではあった。つまり、役者の方が思い思いに芝居をつけて、それに対し谷演出の「ここはこうしようか」というコメントが入ったりし、舞台上での絵面がちゃんと見えて来るような稽古ではあった。しかし、それはあくまで台本に忠実な上での無難な絵面にすぎなかった。そのことが、今日の稽古ではっきりします。

立ち稽古。冒頭から役者に演じさせていきながら、谷演出は、台本では確定していない部分を試行錯誤しつつ決めていく(「東谷ソファーに寝転がってみてくれる」「いっそ亮君上手のソファーにしたら?」「えちご(中間さん)は坐るの禁止で、センター奥に居て」)。それと同時に、谷演出は、台本には無い要素を次々足していって、目の前に現前するものを台本以上のものへとどんどん飛躍させていきます。これが面白すぎる。それは、ちょっとした反応や科白を付け足すのにとどまることもあれば(「……の科白の後に『ん?』って言ってみてくれる?」)、シーンの印象を大幅に変えるような発想の転換の試行であることもある(「このシーン普通すぎるな。どうしたらいいんだろうな。……でやってみようか」)。谷演出は、その場でポンポンアイディアを出して役者に試させていきます。そして、役者の方は最初はとまどいつつも、谷演出の意図を理解すれば、そのベクトルを自分のアイディアでさらに倍加させていく。結果として、台本からだけでは読み取れないはずの、予想外の面白さが目の前で具現化する。

例えば。台本上で次のようなやりとりがあります。
A「遅いな。Cさん。」
B「お前これさ。」
A「はい。」
字面で見ればなんてことない会話ですが、ここにいたるまでに、谷演出がAのキャラクターに一貫して或る要素(主に所作に関して)を加味していって、それをAの役者の方がさらに謎な方向に飛躍させたので、なんかよく分からないけれども、これだけで笑えるやりとりになったりする。読み合わせの時点では絶対に出ていなかった面白さです。このような、「なんかよく分からないけど面白い」という効果は、たしかに、稽古場でじかに演出家と俳優とでアイディアをがしがし突き合わせながらでないと実現できないように思える。アイディアとアイディアの掛け算、つまりそれが「演出」の醍醐味なのだと。

『アクアリウム』、まだ脱稿には至っていませんが、舞台上でどのようにこの作品が現前するのかは、徐々に見えてきています。次回のレポートにつづく!

【今日の一枚】
或るシーンで実現したい雰囲気というものがなかなか作れないので、谷演出が俳優たちにもアイディアを出してほしいと言い出し、ディスカッション中の俳優の方々。ときには相当精密に動きや発語のニュアンスを指定する谷演出ですが、俳優たちにも考えさせ、「演出家と俳優全員の脳みそがまざりあった状態でやりたい」ということも志向しています。
画像

稽古場レポート第十回 – 11月19日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第十回をお届けします。
(目下『アクアリウム』について耳寄りな情報が公開されていますので、そちらもよろしくです。 →『アクアリウム』情報公開第2段!! http://ow.ly/qTVvC

稽古オフを一日挟んでの19日は、新たにラスト近くまでの台本が役者に渡されましたが、まだまだ改稿の余地があるということで流れで読み合わせしたにとどまりました。本日集中して行なわれたのは、一昨日までの部分の返し稽古です(読み合わせだけれど少し芝居をつけながらの、半分立ち稽古のような稽古)。

そして、本日の集中した稽古で、部分的ではあるけれど、谷演出が台本を書きながら想い描いていたイメージが飛躍的に具現に近づいたという観があります。たとえば谷演出は14日に──第一・五稿として再出発してから新たに書き上げた部分を持参した日に──すでに次のようなことを言っていた。「今日出した台本に関して、ふざけて書いているのかなと思われる箇所があるかもしれないが、そういう意図はなくて、むしろ必死にやっている人のズレ方が見るひとによっては滑稽に映る、という感じでやれればいいな、と思っている。……登場人物をコケにするんじゃなくて、そのひとはそのひとなりに自分の人生に向き合って必死に生きている、その上でそれが面白く見える、というのを目指したい。」

おそらく「ふざけて書いているのかなと思われる箇所」というのはこの辺りなのだろう、という見当はつきます。けれども、14日の読み合わせでは上述の「面白さ」は見えて来なかった。谷演出の言葉も概念的な理解にとどまった。それが、本日の返し稽古の中で、谷演出が、そのシーンにかかわってくる人物ひとりひとりの腹にある感情を役者に示唆し、局面ごとに空気がどう変わるかのイメージを伝え、場合によっては台本にない掛け声や感情表出(「泣く」というト書きのないところで「もっと泣いて泣いて」と指示)を追加して、そのシーンを構成する要素を歪なくらいに研ぎ澄ましていった結果、最終的に、その場にいる人物全員真剣なのに見てると爆笑できるという、ポップにズレまくったシーンに仕上がったのでした。それでようやく、「ああ、最初からこういうことがやりたかったのか!」と腑に落ちた次第です。

そしてたぶん、まだ谷演出の頭の中にあるだけで具現化されていないニュアンスやイメージというものは、膨大にある。というのは、これまでに稽古の合間合間で谷演出は『アクアリウム』という作品で何を目指しているのか、役者たちに語ってきていたからです。「そのひとはそのひとなりに自分の人生に向き合って必死に生きている、その上でそれが面白く見える、というのを目指したい。」というのはそのうちの一つに過ぎない。たとえば以下のような谷演出の言葉も、主要なモティーフとして、なお具現化を待っている。台本の字面の深層で。けれどもそれを具現化するための端緒も、今日の稽古の中でかすかに掴まれたという気がします。

「酒鬼薔薇聖斗を扱いつつ、少年犯罪と現代の閉塞感というテーマを打ち出しつつ、それでいて茶化したり問題の扱い方を浅くしたりはしないで、しかも、観終わったら『とても楽しい芝居だったな』と思える作品にしたい。」

この戯曲が『アクアリウム』と題されている所以も、そろそろ明らかになりそうです。次回のレポートにつづく!

【今日の一枚】
役者たちの前につかつかと歩み出て演技指導をする谷演出。役者のふっきれない演技に対し、人間がいかに発狂するかというさまをみずから身をもって示します。
画像

INTERVIEW – 一色洋平さん

『アクアリウム』出演者インタビューの三番手は、弱冠二十二歳、役者として多彩に活躍しながら並行して総合運動トレーナーとしても活動されている、一色洋平(いっしき・ようへい)さんです!

────一色さんはお父さま(脚本家・一色伸幸さん)の影響で幼少の頃から舞台観劇の経験はあったそうですが、大学で早稲田大学演劇研究会に入るまでは、演劇をやろうという機会はなかったのでしょうか。
一色 本格的には、なかったですね。自分の行っていた高校が、文化祭で、何の決まりもないのに全クラス演劇をやって毎年お客さんの投票で一位を決めるみたいなことをしている学校で、それに熱心に取り組んだということはありましたけど。でも、演劇に対する関心は昔からあって、高校三年の夏に中学からやっていた陸上競技を引退してから、今後何をやろうかと考えたときに……その頃も僕は舞台観劇によく行っていたのですが、まわりの男友達はほとんど舞台を観たことがないという人たちばかりで、それが勿体ないなと。舞台って面白いのになと。そう思って、どうやって周囲の友達に演劇を広めようかといろいろ考えてみたところ、まずは自分たちで演劇をやってみんなに見せようということを思い付いて。演劇部の仲の良い友達を誘って演劇ユニットを組んで、芝居をすることを始めました。それが演劇に主体的に取り組んだ初めてです。なんというか、最初の動機は、俳優になりたい、プロの役者になりたいということよりも、演劇の面白さを是非多くのひとに知ってもらいたいという想いでした。

────そして大学では演劇研究会に入って、本格的に演劇の道へ進んだということになりますが……その前に、一色さんは総合運動トレーナーであるという一面もある。陸上競技を引退した選手が必ずしもトレーナーになるとは限らないことを考えれば、トレーナーの資格を取ろうとされた動機も伺ってみたいのですが。
一色 まず、大学では陸上をやるつもりはなかったんです。自分も一応色んな戦績を残してはきたのですが、自分の身体のことは自分が良く分かるので、大学入ってからも勝てるかどうかは多分難しいと自覚していて、高校できっぱりやめる決心はついていました。でも、それでも、運動競技、陸上競技、そしてひとの身体というものがすごい好きだっていう気持はあって……なんで好きかというと、身体っていうのはとても単純だからです。1+1=2くらい。そんな単純な計算問題のように筋肉痛の理由が分かったり、こっちを治しちゃえばこっちも治るみたいなことがすらすら分かったり。そういうとっつき易いところから好奇心を持って、また、自分は人をサポートすることも好きだったので、それが相俟って、指導者、トレーナーとしての勉強に取り組むようになりました。

────そして総合運動トレーナーとしての知識を演劇にフィードバックするかたちで、一色さんは俳優へのトレーニング、劇団へのワークショップ等も行なっているとのことでしたが、それはどういった内容のものなのでしょうか?
一色 俳優っていうのは作品によって身体つきがいろいろ変わらないといけない職業だな、と思ってるんです。僕も出る芝居出る芝居で結構身体つきが変わります。その変わることを見越して、俳優は変わりやすい身体を用意しておくべきじゃないかと思って。怠惰で不活溌な身体もときには必要なのだろうけど、ときにはすごくキレる身体も要求されることもあるわけで、そのためのフレキシブルに動ける要素を身に付けたら俳優にとっては役立つんじゃないかと思って、僕はそれを「フレキシブル身体論」って呼んでるんですけど、そのことを最近俳優の方々にお教えしたりしています。

────お話を聞いているとやはり「身体」というのが一色さんにとって肝要なのだと感じます。そこで、たとえば稽古初日の『冒した者』のテキスト読みでも、一色さんは「身体と演技の関係について何かポリシーをもってますか?」と谷さんから逆に質問されていましたが、実際そのような意識、ポリシーを明確にお持ちでしょうか。
一色 そうですね……いつのことか明確じゃないんですが、今まで色んな方と出会ったり、同じ演劇をするひとと出会ったりする中で、その相手の普段、平素やっていることをすごく気にして注目するようになった時期があったんです。こうやって単に会話しているときに相手がどういう動きをするか?とか。中にはめちゃくちゃ動きながら喋るひともいるし、じっと動かないひともいる。それを観察してみたときに、或る時ふっと、視点を折り返して、じゃあ自分が動きをつけて喋ったりするのは一体どういう時なんだろうとすごく冷静に自分を省みて、そこから、実は身体と心って関係してるんだなってことに気づいたんです。で、演劇の稽古においてもこの気づきは重要だなと思って。というのは、稽古中演出家から「今の感じ良かったよ」と言われた時に、俳優としてはそれを毎回毎ステージ再現したいと考えるわけですが、それをどうやったら再現できるのかということの答えは、たぶん自分の身体の内にしかないと思うんです。つまり、どのくらいの横隔膜の震えだったか、手足にどれだけ力が入っていたか、お尻はどれだけ締まっていたか、肋骨がどれだけキュッとなっていたか、そういった感覚を、例えばそれにともなう感情を再現してみるのではなく、同じ身体の状態を再現してみるだけで、似たような感情がまたふっと再現できたりするということもある。そのことに気が付いたんです。そこから、身体と心がリンクしているならば、先に身体の状態の方を用意してしまえば、感情の方も再現しやすいんじゃないか、「良かった」テイクを再現するには、実はそれも一つの近道なんじゃないか、……そういうことを、自分なりにいろいろ試してみて見出していきました。それが、身体と演技にかんする自分の考えと言えば考えです。

────一色さんはtwitter上で、先日まで出演されていた『太陽とサヨナラ』で学んだことは「息を吸うこと」と「力を抜くこと」の偉大さだ、と仰っていたのですが、それもまた、今の身体と演技というお話とつながることでしょうか。
一色 なんだろう……呼吸のことは、相手の話を聞くときに自分はどうしてるだろうか、と言う疑問から考えはじめたことで……自分が話しているときのことはよく覚えていても、聞いているときの自分の状態はあまり意識していなかったな、と思って。それで、自分の身体を振り返ってみた時に、「あ、人の話は息をちゃんと吸わないとちゃんと聞けんな」ということに気がついたんです(笑) 普段の生活で、聞いている時の呼吸を色々試してみたのですが(止めてみたり、吐いてばっかりにしてみたり)、やはり聞く時間が長くなればなるほど、きちんと吸わないといけないことが分かりました。ところが、僕は、舞台上で相手の話を聞くときに、どうやら吐いている量の方が多かったんですね。そして、僕なりの身体論を踏まえて言うと、息を吸うことによって身体全体の動きは正しくなるし、息を吸う量が少なくなると低酸素状態っていう集中力が低下する状態におちいってしまうので、やはりちゃんと息を吸って身体の状態を落ち着けて相手の話を聞くということが必要なんだなと考えはじめて。それが『太陽とサヨナラ』の初日の頃です。本番の舞台上で、ぼーっとしてるわけじゃないんだけどなんか相手の話を上手く聞けないなと感じたときに、自分はどうやら息を吐く量の方が多くなっている、と気づいた。で、吸った瞬間に、相手の顔が鮮明に、すごく立体的に正確に見えてきて、あ、これだ、呼吸が重要なんだ、と分かったんです。ほかにも、ゆっくり歩くときとかも、集中していると息を吐きながら歩いてしまうんですが、そうじゃなくて逆に吸った方がはるかに楽に歩けるんだな、と気づいたり。そういったことを本番を重ねる中で学んでいきました。

────身体と演技について、非常に興味深いお話ですが……長くなってしまうのでこの辺りで切り上げさせていただきます。最後に、このインタビューを読まれるみなさまにメッセージをお願いします。
一色 先日、ピーター・ブルック(イギリスの演出家)のインタビューに、「演劇の無力さを感じるというのは最悪の状況といえるでしょう。」という一節がありました。88歳になる彼が、世界の演劇界の第一線を走っている彼が、「演劇は世界を変えられる!」と力強くコメントして下さったのです。22歳の走り始めの若僧が、それを信じて走らない手段は、ありません。──今作品『アクアリウム』が、一人でも多くの方の人生に関われますようにと力強く願って、1ステージ1ステージやっていきたいと思います。どうぞ、宜しくお願い致します。

★一色洋平さんの『アクアリウム』チケット個人予約ページ(東京公演12月分のみ)
https://ticket.corich.jp/apply/51045/010/
★一色洋平さんのtwitter
https://twitter.com/yohei_isshiki
★一色洋平さんのブログ「いっしきにっき」
http://ameblo.jp/yohei-isshiki/

稽古場レポート第九回 – 11月17日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第九回をお届けします。
(目下『アクアリウム』について耳寄りな情報が公開されていますので、そちらもよろしくです。 →『アクアリウム』情報公開第2段!! http://ow.ly/qTVvC

本日も数頁原稿を書き上げてきた谷演出でしたが、その新たな部分は使わずに(ここから先ラストまでデリケートな部分になるので、書き直す可能性が大いにある)、今日はここまでの原稿からいくつかの部分を取り上げ、読み合わせの返し稽古を行ないました。

谷演出のダメ出しは日に日に細かくなっていきます。昨日までも丁寧なコメントは出ていましたが、今日のはちょっと質と量の水準が違う。「ここの箇所テンポが全体的に早い」「もう少し相手に合わせて突っ込む方法を変えてください」──といった大掴みなダメ出しに代わって、たとえば、一色洋平さんが台本の「それはまぁ」という言葉を「まぁそれは」と覚え違えていたのに対し、「そこは正確にしてください。『まぁそれは』だと『まぁそれは(いいじゃないですか)』というニュアンスになってしまいますが、そうではなくて、『それはまぁ(置いといて)』というつもりで書いているので」というピンポイントでの修整が入る。ようは、台本の言葉ひとつひとつの背後に膨大なニュアンスの想定があって、俳優がそれをなんでもないように口にしてしまった場合、すかさずダメ出しが出るという感じです。逐一。

この「あぁ」という科白は「あぁ(言ってなかったっけ?)」というニュアンスでわざとらしく。「厳しい世界なんだね」これは十歳の女の子が好きな男の子に感心するみたいに。「ばか言うなよ」これには「おまえの方が好きだよ」というニュアンスを込めて。「ごちそうさま?」これはもう十分喋ったでしょ、片付けるよ?という素っ気なさで。「ばーか」これはもっと小難しいこと言おうとしてこの一言しか出てこなかった、というふうに。「しかし部長、三人目も魅力的だ」これは邪悪な武器商人のような感じで。旦那、こっちの商品も良いですぜ、みたいな。……

これら幾多のダメ出しの正解を担保するものは何か。思うにそれは、作家兼演出の谷賢一の頭のなかにある、登場人物ひとりひとりについての直観的なイメージです。ロジックとしては、この人物はこうこうこうだからこういう状況ではこういう空気を出してこういう振舞いをして、この科白の中のこの言葉をこういうふうに喋る、という筋道。

そして、そのイメージを俳優が受肉したとき、俳優がただナチュラルにそこに立っているのではなく、リアルな登場人物として見えてくる。谷演出が稽古の後半に、「なんか歪な感じが見えて面白くなってきたな」とふと言って笑ったとき、確かに東谷英人さんが●●として見えてくる瞬間がありました。今後も、こういった瞬間がどんどん増えていくのだろうと思います。

次回のレポートにつづく。

【今日の一枚】
今回は詳しい説明は無しで。twitterで谷演出も言及したとおり、今作では大原研二さんと一色洋平さんに尋常でない役が振られています。この一枚から、何かしらそのヤバさを感じ取っていただければと存じます。
画像

稽古場レポート第八回 – 11月16日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第八回をお届けします。
(本日『アクアリウム』についての新たな情報も公開されたのでそちらもチェックしてくださいね! →『アクアリウム』情報公開第2段!! http://ow.ly/qTVvC

16日の土曜には、谷演出がさらに書き進めた原稿を持って登場。そのできたばかりの部分を三度ほど読んでニュアンスを試したあと、原稿を頭から読み合わせていきました。

谷演出が言うには、今日書いてきた部分でおおよそ『アクアリウム』の全体像は見えてきたはず、とのこと。戯曲というのは展開的に開いていく時間と閉じていく時間があって、『アクアリウム』は、ここまで書いてきたものにプラスであともう少しだけ開くけれど、あとは閉じていくだけなので、作品の射程は今日までで読み合わせした部分にほぼ含まれている。だから先が分からないからイメージできないということももうほとんどないはず。今後は演出家(作家)と俳優とで互いのイメージを狭めていって、互いのなかで正しいイメージを結べるよう努力していくことになる──。

……とはいえ、傍からの見学者の目で見ると、この時点ではまだまだ谷演出が持っている確たるイメージと、俳優陣が抱いているイメージとのズレ、差異、その乖離が大きいことに驚きます。無論俳優の方々も無考えにやっているのではない。科白をちゃんと入れた上で、色々試行錯誤して演技のなかで実践しているのですが、むしろ「不安が良く見える。見え過ぎで、なるべく逆をとって、全然動揺が見えなくてもいいくらい。」「すごい一生懸命やってくれているけど、ちょっと変な力み方になっている。」……といったダメ出しが出たりもする。

ダメ出しについては、9日にあった演技レクチャーでも言及がありました。演出が抱いているイメージがひとつの円だとして、俳優が(テイク毎に)演技として表わすものもひとつの円だとして、その二つの円は、重なり合う部分もあれば重ならない部分もある。その場合、演出家のコメントの仕方としては、重なっている部分について「ここ良かったよ!」と言うか、重なっていない部分について「そうじゃないんだよねー」とバツを付けるか、の二種類。で、後者のケースで問題なのは、稽古が進んでバツが増えていくにつれてそれが俳優にとって重荷になってしまうこと。「自由にやって」と言われても、「でも大きな声出すなって言われたんで」「もっと待ってと言われたんで」と自縄自縛の状態で苦しんでしまう。でも、俳優の姿勢としては、とにかく解釈が合って「良かった」と言われたところをひたすら追求しつづけるしかないだろう……それに、イメージの芯さえ捉えられていれば、あとは円が多少はみ出ようが小さかろうがどうでもいいはずなのだ……ということを、谷演出は講義していた。

この日もだから、単に「……しない」というダメ出しをするだけでなく、「ここは良かった」「ここの部分では良く出来ているので、その感じをこちらでも出せれば」といったマイルドなコメントも丁寧に出されました。しかし、稽古時間の残りにそれほど余裕がないことも事実。なので、稽古中に谷演出からこんな発言も飛び出します。

「おそらく今の執筆ペースだと、火曜日には脱稿できるんじゃないかなと思います。そうなるとあとは稽古稽古ですが、今回は時間の問題もあり、『よし。じゃもう一度やってみようか!』というやり方ではできそうにない部分もあるので……相当乱暴な稽古の付け方をします。演劇悪魔と呼ばれる所以の稽古を久々にやることになりそうです。」

やべええええええええええええええええええええええ。来週には待望の演劇悪魔降臨祭来るか。戦々兢々とそのときを待ちたいと思います。次回のレポートにつづく!

【今日の一枚+α】
今回は少し趣向を変えて。演出助手の元田暁子さんと、劇団員の塚越健一さん。塚越さんは今作には出演しませんが、稽古場に通って演出家や役者を補佐する仕事をさまざま担っています。つい先日ご生誕日を迎えられたそうで。おめでとうございます。
画像
もう一枚。「ダメ取り」中の元田さん。できるだけ止めずに流れで見るというかたちの稽古では、役者に演技をつづけさせながら、谷演出は、このようにダメ出しを元田さんにつぶやいて書き取らせていきます。そして演技中断後のダメ出しタイムでも、主に元田さんが発言する。谷演出の演劇言語を高いレベルで理解している元田さんだからこそできることでしょうか。
画像

『アクアリウム』情報公開第2段!!

11月10日に情報公開したDULL-COLORED POP#13『アクアリウム』。
全国5都市で上演する本公演の新たな情報を毎週日曜日に公開していきます!

本日の新たな情報は…

【1】ゲスト出演者発表!
【2】リピーター割引の実施!
【3】ワーク・イン・プログレスのお知らせ
【4】福岡公演、明日(11/18)よりチケット販売!

——————————————————————————-

【1】ゲスト出演者発表!
本作において大変重要な役どころでゲストの方にご登場いただきます!
年齢も性別もバラバラのゲストの方々が演じる「あいつ」にぜひご注目ください!

12/05(木)~11(水)  清水那保(元DULL-COLORED POP)
12/12(木)~16(月)  山崎彬(悪い芝居)
12/18(水)~20(金)  原西忠佑
12/21(土)~23(月)  井上みなみ(青年団)
12/24(火)~27(金)  芝原弘(黒色綺譚カナリア派)
12/28(土)~31(火)  広田淳一(アマヤドリ)

【2】リピーター割引の実施!
たくさんのゲストの方を日替わりでお招きする本公演。
ぜひゲストの方の違いもご覧いただきたい…ので、リピーター割引を実施致します!
ご予約時に備考欄に「リピーター希望」とご入力いただき、当日受付にて半券をご提示ください。
その場で1000円引きとさせていただきます。
※既に複数回ご予約くださったお客様は、半券をご提示いただければ割引をさせていただきます。

【3】ワーク・イン・プログレスのお知らせ!
「製作途中の作品内容をお客様に公開し、観客の視点や意見を取り入れることで作品をよりよいものにしよう!」というワーク・イン・プログレス。今回、11/24(日)にワーク・イン・プログレスを実施致します!稽古を公開し、お客様の視点や意見を取り入れて、作品を育てます。

日時:11/24(日)19:00~21:30
場所:都内某所稽古場(ご参加者にのみご連絡致します)
参加費:500円又は500円相当のお菓子
定員:10名
申し込み方法:info@dcpop.orgまで、以下の項目を書き添え、ご連絡下さいませ。弊劇団からの返信を持ってお申し込み完了となります。
[件名]ワーク・イン・プログレス申込
[本文](1)お名前 (2)人数 (3)携帯電話番号 (4)メールアドレス(PCメール受信できるもの)

※写真撮影・録画・録音などは厳禁とさせて頂きます。メモなどによる記録は構いません。
※衣裳、小道具、照明、映像などがない状態での稽古になります。

【4】福岡公演チケット発売!
明日、11月18日午前10時より福岡公演のチケットを販売致します!
DULL-COLORED POP九州初上陸。
人間性の最も暗くグロテスクな一面をあくまでポップに描く東京の劇団、DULL-COLORED POPをぜひ観にいらしてください!

——————————————————————————-

次の情報公開は11月25日!
東京公演でのイベントなどをご案内致します。
来週もお楽しみに!

稽古場レポート第七回 – 11月13日•14日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第七回をお届けします。

13日の水曜日は一挙に脱稿にむけて前進するため谷演出はまた執筆にこもり、全日俳優同士での自主稽古となりました。今ある分の台本の科白を入れていきつつ、少し動きをつけて、演出の目がないだけに、自由に色々試していく読み合わせの稽古が行なわれた。

そして14日の木曜日はうって変わって、新たに書き上げた原稿を持参しての谷演出が稽古場に居合わせ、昼夜、びしびしダメ出ししていく読み合わせの稽古です。ダメ出しというより、台本上のひとつひとつの科白が出てくる根拠を腹に落とすため、この作品が求めている共通の演技の方向性のヴィジョンと、各々の登場人物の核心を役者ひとりひとりが探っていくためのヒントとを、細かく与えていくというふう。たしかに、谷演出の頭の中にあるヴィジョンが完璧に実現されれば、その場の人間関係のグニャッとした感じがグロテスクかつポップに抉り出されつつ、それが物語構造的にも演劇的にも面白い、という作品になりそうです──そういう脚本になっていると思う。けれども、まだその完璧な実現に至るまでの距離も広くあると、現時点の読み合わせでは、感じられもする。

たとえば、谷演出が「一番成立まで遠そう」と言った或る難所のシーンについての、谷演出のコメント。「ここのシーンの、何も起こらない感じを、どこまでクオリティ高められるか。それで随分変わってくると思う。ここがしっかり見えてくると作品全体の企図も見えやすくなるので。なんにも起こっていないのに観るに値する、という空気を作れるかどうか。たぶんブレスが非常に大事になる。どれに笑いで反応して、どれにため息をついて、どれに相槌を打って、ということでかなり空気は変わるだろうから。……」「とはいえ、呼吸と反応でやるところは増やしたいとは思っているけれど、一方ですごい緻密なことができるといいな、とも思っている。ようは、喩えだけど、机に置いてある柿ピーを取って、開けないで戻すみたいな仕種が、うまく利くような、そういうので関係が描き出せるような芝居になればいいとも思っているので、科白はくずさないでください。くずさない方が緻密なことはやりやすいはず」。

と、明らかにきわめて高度なことが役者に要求されているのが、分かるだろうと思います。そして今はまだ、谷演出の要求するクオリティの高さにとまどいつつ、各自の演技観の根っこが異なるのを越えて、座組でこの作品のための共通言語を構築していこうという段階にある。返し稽古における谷演出の幾多の丁寧なダメ出しも、本質においては、おおむね同じことを言っているのだと思います。──テキストが要求している背景、根拠、思考のジグザグをイメージすること。「焦っている」芝居をするのではなく、焦っていない振りをすることでむしろ動揺が出たり、というふうにすること。不安であるからこそポジティヴに振舞おうとしている、普通にやろうとしている、そういう感覚を探すこと。……

今現在上がっている原稿は全体の約三分の二。今月下旬にはワークイン・プログレス(予定)。どうなりますやら。次回のレポートにつづく!

【今日の一枚+α】
こちらは13日の俳優同士での自主稽古のときの写真です。稽古前の立ちながらの円陣でのミーティング。それぞれの張りつめた真剣な表情に注目。弛緩した空気は一切ない。
画像
そしてもう一枚。14日、ランタイムを計るための通し稽古の最中。通しなので谷演出は止めてコメントするということはしませんが、ときどきこうして前に立って身振りで指示を出していきます。
画像

INTERVIEW – 渡邊亮さん

『アクアリウム』出演者インタビューの二番手は、『ボレロ、あるいは明るい未来のためのエチュード』『あの頃の私たちの話』につづいて三度目の谷演出作品参加、フリーで活動中の渡邊亮(わたなべ・りょう)さんです!

────渡邊さんが演劇に関心を持ったのは幼稚園の頃にまでさかのぼるそうですが、それはどういう体験だったのでしょうか?
渡邊 僕には十四齢年上の、「無名塾」に所属している姉がいるんですが、その姉が出ている公演を幼稚園のときに観たのが演劇に触れたはじめてです。それを観て面白いと感じたっていうより、なんかそういう世界があるんだっていうことが、衝撃的だった。演劇作品としてどうのっていうより、女優とか、俳優っていう仕事があるんだっていうことが。ウチの家族のなかでそんな仕事をしているのはその次女の姉だけなんですが、やはりその姉の存在が、自分にとっての芝居を志したきっかけでした。

────でも、はじめのきっかけはかなり早いんですが、別に高校演劇をやってたということもなく、2008年になってようやく俳優の道に入った、という経歴になっています。これは何故でしょう?
渡邊 恥ずかしいと思ってたんです! 芝居恥ずかしいって。しかも、姉から役者としてやっていく努力がいかに大変かと聞いていたので。俳優やりたいという気持はあったんですが、「俺もテレビ出たい」とか軽く言うと本気で怒られるので、だからこそ、やりたいけど、こわい、という気持が先に立ってしまっていた。でも、2008年になってふんぎりがついたっていうのは……要因は色々です。色々ですが、とくにウチの父が亡くなったこと、とか。……そう、父親の葬式で、友人代表の方が長くスピーチをしたときに、四人きょうだいのうちの長女、次女、長男については各々社会のどういう方面で活躍しているとか、こんなに親孝行だったってことをコメントされていったんですが、僕だけ、何も言われなかったんです。それですごい「あー俺何やってんだろう……」と自分を省みて。父親に対し申し訳ないとさえ思って。そういうことがあって、もううだうだ言ってるんじゃなくて、たとえあやふやではあっても、ちゃんと自分のやりたいことに対峙しなければならないと考えて。そこからですね、本格的に俳優になろうとし始めたのは。

────そして2008年からの5年あまりで、鵜山仁さん、船岩祐太さん、小川絵梨子さん、黒澤世莉さん、そして谷賢一さんといった錚々たる顔ぶれの演出の下で舞台に立ってきていますが、たとえば谷さんと縁ができたきっかけは、何だったのでしょう?
渡邊 僕は井上裕朗さんと自身の初舞台でご一緒させてもらったんですが、その縁ですね。はじめは全然舞台のこと分からなかったので、裕朗さんが出る舞台は全部観ようとして。その流れで谷さんの作品に触れて、興味を持ちました。谷さんのワークショップに参加したのも、裕朗さんが勧めてくれたからだったと思います。そして、谷さんのワークショップはすごい自由で面白かった。『欲望という名の電車』のテキストを使って、そのト書きを自分たちで書き換えてしまったらどういう効果があらわれるかという実験をして。たとえば、「椅子に坐る」というト書きを「タケノコを抜く」に変えてしまうと、そこで身体が変わってしまうわけなので、芝居としても全然別のものが生まれてくる。僕にとって、谷さんはそういうふうに演劇において身体の変化から得られるものに注意を促してくれた最初のひとで、それは自分でも、すごいいいな、と思えた学びだったんです。……で、そのワークショップのなかで目をつけてもらって、『ボレロ』に呼んでもらったという経緯です。

────なるほど。では、渡邊さんにとって谷賢一さんというのは、他の演出家の方とくらべてとくにどんな方だと感じていますか?
渡邊 なんでしょう……勝手なイメージですけど、すごいどんどん演劇の可能性を追求されている方だな、と。すごい純粋に。その姿勢は素敵だと思うし、演劇に救われたいなとは僕も思っているので、谷さんが持っている意志や情熱の大きさには、自分も怯んでいられないな、という気持にさせられる。演劇という表現を楽しんでいるひとは他にもいるんですが、なんかほんとに、人生において演劇を必要としている、業のように演劇をやっているというのは、谷さん以外には自分は知らない……。あるいは、年輩の方だとそういうところをもう通過してしまったので見せないだけかもしれないですけど。とにかく、以前から谷さんとはもっと関わりたいと思っていたので、今回、こうしてちゃんと台本があって谷さんの演出の下に舞台に立てるというのは、幸せな機会だと感じています。

────ところで、これは本作とは関係なしに訊くのですが、役者として、渡邊さんのようにフリーでやっていくことと、劇団に所属してやっていくこととは、どのような違いがあるとお考えでしょうか。
渡邊 意識は明らかに違います。あくまで僕からの目線で言うと……フリーの場合、その作品に関わった時間というのは、終わってしまうと、やはり継続はされない。個人個人の課題は継続されると思うんですけど、新しい現場にいくと、そこでの共通認識とか共通の課題ってものはまた別のもの、新しいものになる。でも、一つの劇団という固定した顔ぶれで、一つの作品のなかで或る課題を見出したとしたら、次にまた同じ顔ぶれでやるときには、目的に対するスタートが違うんですよ。もっと掘り下げることができる。役者同士のやり方でもさらに別の可能性を追求できる。それは理想的ではあるのですが……僕はまだ浮気に大海原でただよっている感じがあるので、同じ船で同じ顔ぶれで同じ国に行く、というのは、やっぱり、責任を担えるのかなという不安があります。劇団員として。そう……劇団というものに興味はあるのですが、やるからにはちゃんとやりたいし、そうでなければ周囲にも失礼だと思うし、今はまだその覚悟が固まらないという状況です。……逃げかもしれないですけれど。

────では最後に、このインタビューを読まれるみなさまにメッセージをお願いします。
渡邊 この稽古場レポートでも分かるとおり、一日一日勝負をしている作品ですので、是非みなさんに観ていただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします。

★渡邊亮さんの『アクアリウム』チケット個人予約ページ(東京公演12月分のみ)
https://ticket.corich.jp/apply/51045/013/
★渡邊亮さんのtwitter
https://twitter.com/tenpariQ
★渡邊亮さんのブログ「渡邊りょう@Blog」
http://ameblo.jp/tenpa-9696/

稽古場レポート第六回 – 11月12日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第六回をお届けします。

月曜日に一日の稽古オフをはさんでの、稽古六日目。中村梨那さんだけは遅れて到着予定でしたが、谷演出も復帰しての座組全員がそろった一日。冒頭、谷演出からあらためて現状の説明がありました。一昨々日、それまでに出したテキストを全没にするという結論に至り、新しくプロットを組み立てることに決めたこと。昨日の朝までで、その第二稿を12、13頁ほど書き進められたこと。だけれどまたその第二稿を全部ブン投げて、昨日の夜から今日の朝までで第一稿の改稿をずっとやりつづけていたということ。谷演出曰く、「やっぱこっち(第一稿)で行けるんじゃないかな……と思うので、今日もう一回トライしてみたい」。

そうして改稿されて新たに提示された台本は、おそらく、谷演出のなかでどうしても外せない要素を残しつつ、技巧的な部分を削ぎ落とし、よりシンプルに異質的・対比的効果を見えやすくした、というふう。ひとことで言えば、バロック。人によっては単なるブラッシュアップととるかもしれないが、どちらかと言うと、モティーフのレベルでの更新を含む大胆な変更のように思います。第一稿に戻ったというよりは、第一・五稿と言う方がふさわしいかも。つまりは安易ではない、もう一度イチからスタートするくらいに挑戦的な努力を必要とした「改稿」だったろうということです。

それでも、もとの第一稿があるだけに、十分な稽古ができるだけの台本(14頁)が今日は上がってきました。なので「空間歩き」(いずれ写真つきで解説します)のウォーミング・アップの後、さっそく読み合わせの稽古を行なった。そのなかで谷演出から次のような印象的な発言が飛び出します。「この作品で、観に来てくれたひとに『演劇ってこんな可能性もあんな可能性もあるんだ』、『演劇にはこういうこともできて、こんな多様性があるんだ』って感じさせたい。だからチャプター毎のトーンを研ぎ澄ましていこう」。

その言葉どおり、今日は改稿前の第一稿による読み合わせのときよりも、さらにさらに精度の細かい返し稽古がつづきます。ときには、どれだけ「間」を置くかをグルーヴで理解させるために、谷演出みずから「間」が終わるタイミングでキューを出すという指導まで行なわれた。ほんのちょっと出を遅らせたり、言葉のキャッチボールを少しズラすだけで、シーンのトーンがかなり変わってしまう。そのことを如実に実感しながら、わずかなタイミングの相違に意識を割きつつ、そのチャプター毎のイメージを段々と共有していく役者の方々。……

一度は窮地に立ったかと思われたものの、何とかふたたび進み始めた『アクアリウム』上演への歩み。次回のレポートにつづく!

【今日の一枚】
稽古場復帰した谷演出。返し稽古の後には、積極的に俳優たちに質疑応答をうながします。「多めに質問とか意見とか言ってほしいと思います。イメージのフォーカスを早目に共有したい。間違った方向に努力してもらってもしょうがないので」。すでに前のめり気味の熱を帯びている稽古時間。それくらいでないと間に合わないか。
画像

稽古場レポート第五回 – 11月10日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第五回をお届けします。

前回お伝えしたように、台本進捗の遅れから谷演出はこもって執筆に専念することにし、本日は俳優のみでの稽古。谷演出からドラマトゥルク的な役割を託された大原研二さんによる、テキスト読みの稽古が行なわれました。

本日の重要フレーズを一つ挙げるとしたら──“言葉によってフタをする”。前日の9日の稽古の最後には、谷演出から大原さん(と他の劇団員)に向けての駆け足の演技レクチャーが行なわれたのですが、「言葉によってフタをする」とは、そこで語られた一つのアプローチの方法論です。いや、一つのアプローチどころか、もっとも重要な方法論と言っていい。谷演出は「フタを制する者は演技を制する」とまで言っていたのですから。

「フタをする」? そう、われわれは単に自分の感情をストレートに表出するだけの演技でなく、自分の内に対立するものを抱えているような、自分の内で相反するベクトルのものが引っ張り合っているような、「葛藤」の状態の演技をも要求されることがある。そしてその葛藤を演技として成立させるために、内側から衝き上げてくるもの(感情やイメージや思考)に「フタ」をするという意識で、科白を言う前の状態を準備することが非常に重要だということ。しかもこの場合、内側から衝き上げるものと、「フタ」とは、どちらが先行するものでもない。どのくらいの大きさのフタを、どのくらいの強さで、どのくらいのスピードで被せたか、どれほど長く抑えつけているのか、どのタイミングではね返ってくるのか──それによって、(観客に伝わる)内部の内実も変わってくる。内部の衝動は強ければ強いほど葛藤も大きくなるが、その大きさが実際に見えるかどうかは、どういうふうにフタを被せたかと相関する。「フタによって、内側にあるものが見えてくる」。「フタの作り方次第で裏にあるものが決まる」。

「フタ」は、怒りを筋肉をふるわせてぎゅっと堪えるみたいに「身体」である場合もあるけれど、「言葉」もまた、フタとして機能し得る。たとえば相手をぶん殴りたいという衝動を、「はっは! まああんな奴どうでもいいんだけどね」という言葉を自分に言い聞かせることで抑えつけたり。そこでは科白自体がストレートな表現になっておらず、闘争の場になっている。内部にあるものを逃がすのでなく、減らすのでなく、引っ込めるのでなく、「言葉によってフタをする」ことで、衝動の強さは強いままに葛藤を成立させるということ。そしてまた、「言葉によってフタをする」ことは、とりわけ相反するものが共存していて一見思考の糸がちぐはぐであるかのような、ずっと葛藤が持続しつづけているような長大なモノローグを、俳優がちゃんと自分の言葉として生み出すために、有用なアプローチともなり得るだろう。……

というわけで、この日の稽古は、準備稿のなかで或る登場人物が発語する長大なモノローグを素材として──自由に読むというよりは、“言葉によってフタをする”ことに注意を払いつつ──テキスト読みの稽古を行なったのでした。大原さん曰く、今作で谷さんはおそらく、俳優にそういうことを要求してくるはず。すなわち、「葛藤」を表現することを。自分の中に対立を抱えている人物を演じることを。そのための共通感覚をシェアするために、今日の稽古は「言葉によってフタをする」テキスト読みを徹底してやりたい──。

谷演出不在の稽古ではありましたが、本日もみっちり5時間、ひとりひとりがモノローグを読み、それに対して大原さんがコメントし、他の俳優が意見を言い、それをフィードバックしつつ再トライするということをくり返す。見ているだけで疲れるような集中した時間でした。役者のみなさん各々にとっても、実りの多い稽古であったろうと思います。

次回のレポートにつづく。

【今日の一枚+α】
まずは一枚目。昨日は、この黒板に書かれたキーワードをもとに駆け足の演技レクチャーが行なわれました。本日は不在だった谷演出の置き土産。「リアクション」「ちぐはぐ=武器」「根拠」「あたりどころ」「巨像」「針」「断面図」「フタ」「裏」「前/後(前言語状態/後言語状態)」……いろいろ謎でしょうが、追々解説する機会もあると思います。
画像
そしてもう一枚。この日、谷演出から稽古場を主導する役割を託された大原研二さんの横顔。さすがの視野の広さと分析能力が、谷演出の信頼の所以です。
画像

稽古場レポート第四回 – 11月9日

『アクアリウム』の稽古場レポート、第四回をお届けします。

レポート本文に入る前に、あらためてこのレポートの方針を確認します。一応これはDCPOP第13回公演の宣伝のための取材記事ではありますが、谷主宰からは「宣伝という意識は抜いていい」「中立的なジャーナリストの視点で書いていい」と通達されてもいる。つまり、演劇の創作現場の知的なドキュメンタリーという趣旨もこのレポートにはある。ですので、以下では宣伝に好都合か不都合かということをあまり気にせず、起こったことをありのままに書いていきます。

稽古四日目の今日は、客演の方は急遽の稽古オフで(といっても渡邊亮さんと中間統彦さんは最初の数時間は参加して早退というかたち)、劇団員だけが集まっての稽古でした。そしてまずは、劇団員たちにディスカッションをさせておいてそれをただ坐って見ている谷演出。三十分が経過。四十分が経過。しかしやがておもむろに発言する。

「ここまでの原稿、全没にします。」

理由は、今のままの作品の構想だと役者に対するオーダーが際限なく高度になっていくので、稽古時間が圧倒的に足りない、との由。ひとりひとり一週間ずつみっちり稽古して、ようやく形になるぐらいのもので、それも形になるだけだから、とてもじゃないが一ヵ月のロングラン公演に堪えるものにはならない。さらにはそうしてひとりひとりの稽古をつけた上で作品全体のバランスを取るという修整も必要で、あと一ヵ月弱で板にのせ得る水準に持っていく自信は、ほとんど持てない。「申し訳ない。俺の見通しが甘かった」。部分的なカットも難しい。役者にとって困難なパートを削っていってしまったら、作品構想そのものが痩せてしまうから。「そうするよりはもう、イチから構想を組み直した方がいいかもしれないが……」。

選択は二つに一つ。無理を承知で今のままの構想でつき進むか、モティーフはそのままに構想を基本から組み直すか。前者の場合稽古時間の不足は目に見えているが、後者もさらに台本の完成が遅れるということで──しかも組み直して良いものになるとは限らない──時間との戦いはどうしたって切迫したものになる。

窮して黙り込んでしまった谷演出に、劇団員の面々はさまざまな声を掛けていく。「今は谷さんはどれだけわがままでもいいと思う。稽古の予定が変わって役者が迷惑するとか考えなくていいと思う」との中村梨那さんの後押し。明日の稽古のために自主的に役者だけでできることを率先して提案していく堀奈津美さん。「原稿全没にしても全然意に介さないあの●●さんを、谷さんも見習ったらいいのに」と演助の元田暁子さんの謎の励まし。……そして最終的に、明日は俳優のみでの自主稽古とし、谷演出はしばらく籠って作品構想を新たに組み直すのに専念することに決まりました。

予想外の剣呑な展開。しかしこの稽古場レポートも、本作の座組の奮闘もまだまだつづきます。

次回のレポートにつづく。

【今日の一枚】
今回はおちゃらけなしで。椅子に坐って苦悩する谷賢一。この難境も、後になって平和な苦労話になるようにと祈りたい。
画像